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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10664号 判決

原告 新日本貿易有限会社

右代表者代表取締役 村田宏

右訴訟代理人弁護士 植田義捷

右訴訟復代理人弁護士 稲村建一

被告 株式会社 諸江製作所

右代表者代表取締役 諸江秀一

右訴訟代理人弁護士 松本昌道

同 正田茂雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

一  被告は、原告に対し、金五三八八万円及びこれに対する昭和五四年一一月八日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

(被告)

主文一、二項同旨。

第二原告の請求原因

一  原、被告の営業

原告は、スポーツ用品、船用品、繊維等の輸出入、販売を主な業とする会社であり、被告は、バトミントン用品、スポーツ用品の製造及び販売を主な業とする会社である。

二  原、被告間の継続的取引契約

(一)  原告と被告は、昭和五〇年三月三一日、被告が製造販売するサンバタ印バトミントン用品の海外取引(製品の輸出及び原材料の輸入)に関し、原告は被告の総代理店として活動しその総ての業務を行う旨の継続的取引契約(以下本件契約という)を締結した。

(二)  しかして、右契約においては、製品の輸出に関しては、原告は被告から製品を一手に買受け自からの仕切り価格によって輸出するものとし、原材料の輸入に関しては、原告が一手にこれを輸入し被告は原、被告間の取決めで定められた手数料を原告に支払う旨定められていた。

したがって、被告は、本件契約が存続する間、原告に対し、「第一に、原告が海外の顧客からサンバタ印バトミントン用品を受注してきたときはその商品を遅滞なく原告に引渡し、かつ、その製品製造のための原材料を輸入する必要が生じたときはこれを原告に依頼して発注し、第二に、被告はサンバタ印バトミントン用品の輸出及びその原材料の輸入を原告以外の業者に行わせてはならない」という債務を負っていたものである。

三  被告の契約違反

しかるに、被告は、右約旨に反し、原告以外の業者を通じて被告製品の輸出及び原材料の輸入を行っていたばかりでなく、原告が発注した製品の引渡しも拒否してこれを履行しない。すなわち、

(一)  被告は、本件契約締結当初の頃より、訴外太陽商事有限会社(後にサンバタインターナショナル有限会社と商号変更)にも被告の海外取引の一部を取扱わせていたばかりでなく、昭和五三年一一月頃以降は原告を除外して、太陽商事に海外取引の一切を取扱わせようとしはじめた。

(二)  また、被告は、原告に対し、次の製品すなわち(1)台湾製バトミントン羽毛球(サンバタジャック球)、二〇〇〇ダース(但し、原告が、昭和五三年一二月二五日、被告に対し、翌五四年三月以降各月初旬に一〇〇〇ダース宛合計一万ダースを納入するよう発注したもののうちの同五四年七月及び八月に納入すべき分二〇〇〇ダース)及び(2)カナダ製バトミントンナイロン球(サンバタトーナメント球)、六七〇〇ダース(但し、原告が、昭和五四年五月一五日に発注した一〇〇〇ダース及び同年六月八日に発注した五七〇〇ダースの合計六七〇〇ダースで同年七月二〇日を納入期限とするもの)の引渡しを履行しない(以下便宜、両者を一括して原告発注品という)。

四  契約の解除

(一)  そこで、原告は、被告に対し、昭和五四年八月二二日付(翌二三日到達)の内容証明郵便により、(1)昭和五四年八月末日までに前記台湾製バトミントン羽毛球二〇〇〇ダース以上、カナダ製バトミントンナイロン球六七〇〇ダースを引渡すこと、(2)国内産製品の輸出分について直ちに原告に連絡をとること、(3)被告が総代理店契約に違背したことによる原告の損害金二〇〇〇万円を七日以内に支払うことを催告し、もし、被告がこれに応じないときは本件契約を解除する旨の意思表示をした。

(二)  しかるに、被告は、右催告に応じなかったので、本件契約は、昭和五四年八月末日限り、右解除により終了した。

五  原告の損害

原告は、被告の右債務不履行(総代理店契約の違反)により、左記の損害を蒙った。

(一)  昭和五四年一月ないし八月の間の輸入取引による損害六三〇万円

被告が右期間中に太陽商事に取扱わせた輸入取引の取引高は九〇〇七万円であり、その利益率は七パーセントであるから、これにより同商事が得た利益は六三〇万円である。

しかし、右取引は、元来、原告が行うべきものであり、被告が約定どおりこれを原告に行わせておれば、原告も少なくとも右太陽商事が得たと同額の利益を得た筈であるのに、被告の違約によりこれを行うことができず、右と同額の損害を蒙った。

(二)  昭和五二年七月から同五四年八月までの輸出取引による損害四一九万円

被告が右期間中に太陽商事に取扱わせた輸出取引の取引高は二七九一万円であり、その利益率は一五パーセントであるから、これにより同商事が得た利益は四一九万円である。

しかして、原告は、右(一)で述べたのと同様の理由により右四一九万円相当の損害を蒙った。

(三)  昭和五四年九月以降五年間の逸失利益四七三六万円

1 原告の昭和五三年度一年間(昭和五三年七月ないし同五四年六月)の被告との輸出取引高は六三九四万円以上であり、同期間中の太陽商事と被告の輸出取引高は一七九四万円である。

右太陽商事との取引分も元来、原告が行うべきものであり、原告と被告の年間輸出取引高は、本来、右合計八一八八万円以上になる筈のところ、その利益率は一五パーセントである。

そして、原告は、被告の前記契約違反がなければ、昭和五四年九月以降五年間は少なくとも右と同様の取引きを継続しえた筈であるから、これによって、右期間中に得べかりし利益を算出すると六一四一万円以上になる。

2 また、原告の過去四年間(昭和五〇年九月ないし同五四年八月)における被告との年間平均輸入取引高は二八九六万円以上であり、同期間中の太陽商事と被告の輸入取引高は年間平均五一七六万円以上である。

右太陽商事との取引分も元来、原告が行うべきものであり、原告と被告の年間輸入取引高は、本来、右合計八〇七二万円以上になる筈のところ、その利益率は七パーセントである。

そして、原告は、右1と同様、向後五年間はこれと同様の取引きを継続しえた筈であるから、これによって、右期間中に得べかりし利益を算出すると、二八二六万円以上になる。

3 これに対し、原告が右昭和五四年九月以降の五年間の取引きに要するであろう推定経費の総額は五二八〇万円である。

4 そこで、1、2の合計利益八九六七万円から3の経費五二八〇万円を差引いた四七三六万円が右五年間の逸失利益になる(註、計算不整合)。

六  本訴請求

よって、原告は、被告に対し、右損害金の内金五三八八万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年一一月八日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告の答弁

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二(一)の事実は認めるが、(二)の事実は否認する。

三  同三の事実は認める。

四  同四(一)の事実は認めるが、同(二)は争う。

五  同五の事実は否認する。

第四被告の主張

一  被告は、被告の海外取引きに関し、原告に対して原告を経由しない取引きは一切行わない旨約したことはなく、原告主張のごとき債務を負担していたものではない。すなわち、

1  被告は、本件契約締結当時、太陽商事、大拓貿易株式会社他数社を通じて海外取引きを行っていた。

2  一方、原告代表者村田宏は、被告代表者の弟が経営する右大拓貿易の社員として貿易業務に従事していたのであるが、大拓貿易では、右当時不動産の売買、賃貸等を主な営業としており、貿易業務は副業程度に行っていたもので、それも営業不振で中止せざるをえないような状態であったため、原告代表者村田も実質上失職寸前の状態であった。

3  しかるところ、原告代表者村田から、引続き被告の海外取引き業務を担当させて欲しい旨の要請があり、被告は、被告の取引先である太陽商事への入社を勧め、原告代表者村田も同社と交渉したようであるが、結局、給与等の採用条件の点で合意に至らなかった。

4  しかし、その後も、原告代表者村田から、被告に対し、再三、貿易業務をやらせて欲しい旨の要請があり、かつて村田が経営していた休眠会社(新日本ヘアー有限会社)の商号を新日本貿易有限会社(原告の現商号)に変更するので同社に被告の海外取引きの一部を取扱わせて貰いたい旨の申込みがあったので、被告も最終的にこれに応ずることにし、原告と被告との取引が開始されることになったものである。

5  しかし、原告は、右当時、会社といっても、独立の資産、資金を有するものではなく、その業務に従事する者も、原告代表者村田とせいぜいその妻位のものであって、実質的には、原告代表者村田が被告の海外取引き業務の手続を代行するだけのものにすぎなかった。

6  右の経過からも明らかなように、被告は、本件契約により原告に対し、被告の海外取引きの一部を担当させることにしたものにすぎず、原告のいうように、原告を総代理店とし、他の貿易業者との取引き一切をやめて海外取引きの全てを原告を通じて行うことを約したものではない。

当時、被告は、太陽商事他数社を通じて海外取引きを行っていたのであり、これらの会社との取引きをやめてまで、原告とだけ取引きすべき必要も理由もなく、前記のごとき人的、物的規模の原告に総代理店たる資格を与え将来にわたり被告が拘束されるような約束をする筈がない。事実、そのような約束はしていない。

7  ただ、原告との海外取引き契約に関して作成された取引契約書に、原告を被告の総代理店とする旨の記載のあることは事実であるが、右契約書は、被告との海外取引契約を実施するにあたり外国為替取扱銀行に提出する必要があるということで原告が作成してきた書面(被告代表者の記名も原告の方で記載してきた)に被告が捺印しただけのものにすぎず、一々そこに使用されている文言の意味内容について細かく検討してつくられたものではないのであるから、右契約書に総代理店とする旨の記載があるからといって、当然、被告が原告を海外取引きの総代理店とし唯一の取扱い業者として取扱わねばならない拘束を受けるものではない。

8  右契約書作成当時、被告は原告を海外取引きの唯一の取扱い業者とする意思を有しておらず、原告がそのようなつもりで右契約書を作成したものでないことは、原告自身充分認識していたことである。

9  そして、原告がこれを充分認識していたことは、(1)本件契約締結当時、被告が太陽商事他数社の業者を通じて海外取引きを行っていることを原告代表者村田が充分承知していたこと、(2)それにもかかわらず、原告は、本件契約締結に際し、被告に対し、他業者を通じて行っていた海外取引きを原告に引継ぐよう要求したことは全くなく現にそのような手続は一切行われていないこと、(3)また、本件契約締結後、被告が従前同様、他業者を通じて海外取引きを行っていたのに対しても、原告はこれを知りながら何ら抗議もせず、中止の申入れもしていないこと等によって明らかである。

10  したがって、仮に、右契約書の作成により、被告が、原告に対し銀行やその他の取引先に被告の総代理店と称することを許諾したことになるとしても、被告が原告に対しその主張のごとき債務を負担すべきいわれはない。

二  被告が原告に対し原告発注品を引渡さないのは、原告がこれより先に被告に支払うべき商品代金を支払わないためであり、被告が原告発注品を引渡さないからといって遅滞の責を負うべき理由はない。すなわち

1  被告が原告から原告発注品の発注を受け、原告にこれを引渡すべき債務を負っていたことは原告主張のとおりである。

2  しかし、これとは別に、被告は、原告から西ドイツ及び英国向けのバトミントン用具等の発注を受け、その代金の支払について、原告との間で、「原告はあらかじめその取引銀行である三井銀行伊勢佐木町支店に対し、右輸出取引きにかかる信用状を寄託しておき、被告が納品し次第、原告は直ちに右銀行に船積書類とともに右輸出手形を提出して該手形の買取りを依頼し、同銀行から、右買取り代金中被告納品の売掛代金に相当する額一〇三六万五九六〇円(内訳、西ドイツ向け分一六七万五六〇〇円、英国向け分八六九万〇三六〇円)を被告の取引銀行である三菱銀行笹塚支店の被告口座に振込んで貰い、これによって支払う」ことが合意されていた。

3  そして、被告は、原告から昭和五四年六月四日付の三井銀行伊勢佐木町支店宛の輸出円貨代り金振込依頼書(写)の交付を受けたので、右各商品納入後は、当然、右依頼書の趣旨に従って代金が振込み送金されるものと信じ、同年六月二七日頃までに、原告の指示に従って右商品をいわゆる乙仲である日本港運株式会社に引渡し納品した。

4  ところが、その後、通常であれば一週間もすれば送金される筈であるのに送金がないので不審に思った被告が原告に問合せたところ、少し手続が遅れているということであったが、念のため前記銀行に照会してみると、意外にも、原告は同年七月四日右商品の輸出手形等関係書類を前記伊勢佐木町支店に持込み手形買取りを依頼するとともに、その二日後である同月六日頃、被告には全く無断で前記振込み依頼の解除を申出て被告に対する送金を取止め、右手形買取代金全額を原告が取得していることが判明した。

5  そして、その後、被告が右代金の支払いを求めても原告がこれに応じないので、被告も右代金が支払われるまで原告発注品の引渡しを留保したものであり、これについて被告が履行遅帯の責を負うべき理由はなく、原告がこれを本件契約解除の理由とすることは許されない。

三  しかして、本件契約は、そもそも原告主張の解除の意思表示がある前、昭和五四年四月五日頃、既に合意解除されているのであり、この点からみても、原告の主張は失当である。すなわち、

1  被告は、本件契約締結後、海外取引きの一部を原告を通じて行っていたが、次第に原告代表者のやり方、人間性に不信感を持つようになった(例えば、昭和五三年頃、被告がカナダから原材料を購入することに関し、太陽商事と原告の両者を経由して別々に相手業者の輸出価格を問合せて貰ったところ、原告のいう価格の方が一〇パーセント程高く、原告において価格操作していることが察知された。また、本件契約の合意解除後ではあるが、ポルトガルの業者から原材料を輸入するに際し、原告がいわゆる闇口銭を受領していたことも判明している)。そこで、被告は、昭和五三年秋頃から、原告に対し、被告の海外取引きを太陽商事に一本化し原告との取引きを解除したい、解除に応じないのであれば輸出商品は引渡せない旨申入れたところ、原告は取引きの継続を希望し、両者間で交渉が重ねられたが、昭和五四年四月五日頃、被告が「本件契約を合意解除する。但し、昭和五四年一〇月末日までの間は従前どおりの取引きを継続し、その後、なお六か月間は、原告に対し原告が被告の海外取引きを取扱っていた場合に準じた手数料を支払う」旨提案したところ、原告は、不満の様子ではあったが、右解除に応ずる意向を示した。

2  そこで、被告は、右交渉によって合意された内容を書面化し、これを同月下旬頃原告に送付し署名捺印を求めたところ、原告は、これを送り返えしてこなかったものの、被告が捺印返送を催促すると、そのうち引継ぎ書類等全部の書類を引渡す際に交付するから待つようにといって右解除に応ずる態度を示していた。なお、原告が昭和五四年五月七日、被告に対し、当時契約中であったポルトガルのリスコー社との取引きについて、以後、被告において信用状を開いて輸入するよう、原告は右取引きに関与しない旨申入れてきていることは、原告が右合意解除に応じて自からは手を引くような態度をとっていたことを如実に示すものである。

3  そこで、被告は、原告の言を信じて、原告に対し、前記西ドイツ及び英国向け商品その他の商品を引渡しその売掛代金等は昭和五四年六月下旬頃には、合計で一二〇〇万円を超える状態になっていた。

4  しかるところ、原告は、突如、前記のとおり振込依頼書による送金を取止め(なお、右のごとき振込依頼書を利用して行う代金の支払方法は、被告が解除を申入れた後に代金の支払いを確保するためにとられていた方法である)、その後、被告が原告に代金の支払いを催告すると、原告代表者村田はそのことは前々から計画していたことであるとうそぶき、被告が総代理店契約に違反しているなどとそれまでは一度も口にしなかったようなことをいい出し、これについて損害を賠償せよとか被告の株式を無償で譲渡せよ等と無法な要求をし始めたものである。

5  そこで、被告は、以後一切原告との取引きを行わないでいたところ、原告はその主張のごとく解除の意思表示をしてきたのであるが、それより前、既に本件契約が合意解除されていたことは前記のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

第五原告の反論

一  本件契約は、その契約書に明記されているとおり原告を海外取引きの総代理店とするものであり、右契約書は単に銀行に提出するための書類として作成されたものではない。

(一)  被告が本件契約締結当時、太陽商事を通じて海外取引きを行っていたこと及び原告代表者村田が大拓貿易で貿易業務を担当していたことは、被告のいうとおりである(なお、原告代表者村田が大拓貿易に入社したのは昭和四九年二月頃である)。

(二)  しかし、右当時、被告が太陽商事等を通じて行っていた海外取引きというのは、バトミントン用具の原材料を細々と輸入する程度であり、製品の輸出業務の実績は皆無に等しいものであった。

(三)  しかるところ、大拓貿易は貿易業務から手を引くことになったが、原告代表者村田が長年貿易関係の業務に携っておりその方面に顔が広いことやいろいろなノーハウも持っていることを知った被告代表者は、右村田に対し、被告の海外取引きの一切を任せるので被告のバトミントン製品の輸出の振興拡大に協力してほしい旨、再三、申出てきた。

(四)  そこで、原告代表者村田は、被告もいうとおり休業中の新日本ヘアーの商号を現在の新日本貿易に変更し、被告との間に本件契約を締結して、被告との取引きを開始したのである。右の経過によっても明らかなとおり、原告は、被告の海外取引き一切を委ねられていたものである。

二  原告は、被告のいうような合意解除に応じたことはない。

(一)  原告は、被告と本件契約締結後、海外取引きの開拓、拡大に努め、僅か三、四年の間に、当初年間八〇〇万円程度の取引高であった海外取引きをその一〇倍位にまで発展せしめた。

(二)  ところが、国内での販売の拡大をも目論んでいた被告代表者は、太陽商事の代表者小飼栄一(同人は日本バトミントン協会の役員でもある)に被告のバトミントンナイロン球の新製品が同協会の認定品にして貰えるように働きかけ、同人の協力をえていたが、これに対する見返りとして原告が築き上げてきた海外取引きを原告から取上げて太陽商事に行わせるため、本件契約の解除を申入れてきた。

(三)  しかし、原告は、右のごとき不当な意図をもった解除に応ぜられる筈もなく応じなかったところ、被告の方で一方的に作成した合意書を送付してきたものにすぎず、原告が被告に対し本件契約の合意解除に応ずる旨の意思表示をしたことはない。

第六証拠《省略》

理由

一  請求原因一(原、被告の営業)及び同二(一)(本件契約締結)の事実については、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告が原告に対し原告主張のごとく海外取引きの一切を原告に委ね、これを原告以外の業者に行わせてはならない旨の債務を負担していたか否かの点について検討する。

しかるところ、《証拠省略》によると、原、被告間で作成された本件契約書の第二条には、原告が被告の総代理店として活動しそれに伴う総ての業務を行う旨記載されていることが明らかである。

そして、右の総代理店という文言自体からいえば、被告は、本件契約により原告を唯一の取扱い業者とすることを約したものであり、原告主張のごとく海外取引きを原告以外の業者に委ねてはならない旨の債務を負担していたものと解することも可能であり、むしろ特段の事情がない限りそのように解するのが相当であると解されるようにも思われるが、被告はこれを否定し抗争するので、以下、まず、本件契約が締結されるに至った経緯及びその後の取引状況等をみ、しかる後に、本件契約の約旨が原告主張のごときものであったか否かを検討することとする。

しかるところ、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告代表者村田は、昭和四九年二月頃、被告代表者が経営する大拓貿易に入社したものであり、同社に在職中、貿易業務の担当者として被告が同社を通じて行うバトミントン用品の輸出入業務を取扱っていたのであるが、同社では貿易部門の採算が合わなかったことから、同年一二月頃には、右貿易部門の営業を廃止することになったこと。

(二)  そこで、その頃、被告代表者と原告代表者村田の間では、当時、被告のためにバトミントン用具の原材料の輸入等を行っていた太陽商事(昭和四九年二月二〇日設立、代表取締役小飼栄一)に入社して貿易業務を担当してはどうかとの話が持上り、太陽商事の代表者を交えて右入社の件について話合いが行われたが、結局、給料等の条件の点で合意が成立せず、原告代表者村田の太陽商事入社の件は実現しなかったこと。

(三)  そこで、更に、原告代表者村田と被告代表者が話合った結果、同年三月下旬頃には、かつて原告代表者が経営していた会社であり当時休業中であった原告(当時の商号、新日本ヘアー有限会社)の商号を現商号のごとく変更し、原告において被告のバトミントン用品の輸出、原材料の輸入等の海外取引き業務を取扱うこと及び被告は当面原告に対し原告が輸出入取引きを行うことによって取得する手数料とは別に、取引高と関係なしに毎月五万円の定額金を支払うことが合意されたこと。

(四)  そして、右のごとき合意が成立した後、原告代表者の方で、被告との取引きを行うにつき原告の希望に従った内容の契約書を起案し、作成して被告に捺印を求めたところ、被告代表者は格別異議を述べることもなくこれに応じたこと。

(五)  しかして、右契約書には前記のとおり原告が被告の総代理店として活動しそれに伴う総ての業務を行う旨の条項が記載されているが、前記交渉の過程においてその点が格別に取上げられて論議の対象にされた訳ではなく、被告代表者としても、原告と契約したからといって、当時行っていた太陽商事やその他の業者との貿易業務の取引きを一切取止めるとか今後、原告以外の業者を通じての海外取引きを一切行わないことにするというような意思までは持っておらず、そのようなつもりで右契約書の捺印に応じたものではなかったし、原告代表者村田にしても、右のごときことを明確に要求したことはなく、被告代表者が右のごときつもりで捺印に応じたものでないということも充分承知していたものと推認されること。

(六)  そして、本件契約締結後も、被告は、原告のほか太陽商事やその他の業者とも海外取引きを行い、原告もそのことは承知していたが別段、被告に対し他業者との取引きを中止するよう求めることはせず、被告製品であるバトミントン用具の輸出の拡大につとめた結果、被告が原告を通じて行う輸出高は次第に増加していったこと。

(七)  ところが、その後、原告の方で被告主張のごとき価格操作を行っているのではないかとの疑問を持ったりしたこと(事実欄第四の三1参照)などから原告代表者村田のやり方に不信感を持つようになった被告は、昭和五三年一一月ないし一二月頃から、原告に対し、原告との取引きをやめて被告の海外取引きを太陽商事を通じて行うように一本化したい旨の申入れをしたこと。

(八)  これに対し、原告代表者村田は、被告が右のごとき申入れをしてくるのは、太陽商事の代表取締役に原告主張のごとき便宜をはかって貰っていた見返りとして折角原告が築き上げてきた海外取引きを同商事に行わせようとしているものであると考えて(事実欄第五の二(二)参照)、これに応ずる意向は示さず、飜意を求めていたこと。

(九)  ところが、昭和五四年四月頃には、被告から原告に対し、被告の右要求に応じないのであれば輸出商品は引渡さないが、右要求に応ずるのであれば本件契約の解除後も半年ないし一年の間は被告主張のごとき措置を講ずる旨の提案がなされ(事実欄第四の三1参照)、原告はこれに対する応答に苦しんだが明確には拒絶する態度を示さなかったところ、原告が被告の右提案に応ずる意向であると考えた被告は、同月下旬頃、原告に対し、右提案の趣旨を記載した合意書と題する書面を送付し、署名捺印を求めてきたこと。

(一〇)  これに対し、原告は、右合意書には署名捺印しなかったものの明確に拒否して該書面を送り返すということもせず、同年五月七日頃には、被告に対し、被告主張のごとく当時契約中であったリスコー社との取引きに関する信用状は被告において手配するよう記載した書簡を送付したところ(事実欄第四の三2参照)、被告は、原告が被告の前記提案に合意したものと判断して、原告に対し、かねて発注を受け被告主張のごとく輸出円貨代り金振込依頼書を利用して決済されることになっていた西ドイツ及び英国向けのバトミントン用具等を引渡したこと。

(一一)  ところが、右引渡しを受けた原告は、本件契約の解除に関する被告との交渉を有利にすすめる目的もあって右商品に対する代金の支払いを被告主張のごとき方法で拒否し(事実欄第四の二、三の各4参照)、その後、被告に対し、本件契約を従前どおり継続するよう求めたが、被告がこれに応じなかったところ、その後、原告は、被告において従来から原告以外の業者を通じて海外取引きを行ってきたのは本件契約の総代理店契約に違反するものであり、これによって原告は二〇〇〇万円余の損害を蒙っているので、その内の一〇〇〇万円を現金で支払い、かつ損害金の一部支払いにかえこれに相当する被告の株式を無償で譲渡するようにとの要求を出すに至ったこと。

(一二)  右要求を受けた被告は、これでは原告との話合いによる解決は困難であると判断し、原告発注品(事実欄第二の三(二)参照)の引渡しを拒否する態度に出たこと。以上の事実が認められる。

三  そこで、右認定の事実に照らし、原告主張の債務不履行の有無について検討する。

(一)  まず、本件契約書に原告を総代理店とする旨の記載があることは前記のとおりであるが、右契約書が作成されるに至った前記経緯(二の(四)参照)を参酌し、被告としては、元来、原告を唯一の取扱業者とするという意思は有しておらず、そのようなつもりで右契約書の捺印に応じたものではなかったと認められること及び原告としても被告の代表者がそのようなつもりで捺印に応じたものでないことを充分承知していたと推認されること(同(五)参照)に徴すると、本件契約書に前記のごとく総代理店とする旨の記載があるからといって、被告が原告に対し原告主張のごとく原告を唯一の取扱業者として取扱うべき債務を負担するものではないと認めるのが相当であり、他に、被告が原告主張のごとき債務を負担していたものと認むべき証拠はない。

(二)  また、原告発注品の引渡しを拒否したことについても、それが原、被告間に継続的に行われていた海外取引の一部に属するものであって、同じく継続的取引の一環として行われていた商品代金の支払いを原告が拒否したことに対応してなされたものであること(二の(一〇)ないし(一二)参照)を考慮すると、これについても、被告が当然に遅滞の責を負うべきものではないと認めるのが相当である。

(三)  以上のとおりとすると、結局、被告には原告主張のごとき債務不履行は認められないことに帰するというべきである。

四  そうすると、これを前提とする原告の本訴請求は、その余の点の判断に及ぶまでもなく理由がないというべきであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野茂)

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